「もう少ししたら お花が咲いて ここからお花見ができるわね」 転院して来たばかりの 父の病室の窓辺に立って 私が話しかけたのは 一月も終わろうとしていた頃だった 明日の命も知れない父に せめて夢だけでもと かけた言葉だったが 数日後には もう話も出来なくなっていた あれから二ヵ月半が過ぎ 桜が咲いた うっとりするような桜の花 この世の春 しばらくこのまま 私の大切な人が 向こうにいくまで あと少しだけ 季節が止まっていて欲しい 沢山のお願いをして来たけれど もう父のことでお願いするのはおしまい 私の最後の願いです
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