「ここに絵を描くといいよ」と
友人から
ヒョウタンを差し出されて
「私、ダルマを作っていたことがあるの
描いてみようかな」と
受け取った
ダルマを作る材料は
出産を前にして
部屋の片隅から
押入れに
そして物置へと
仕舞い込まれたまま
二十一年ぶりに
ダルマの材料を目の前にして
懐かしがっている私の
背中を押すように
末娘が「早く作ろうよ〜」と
私をせき立てる
足りない材料は買って来て
以前作ったダルマを見ながら
さ〜始めようとした時
ふと、一番古いダルマに目が留まった
手にとって見ると
裏には
昭和五十四年十一月二日
そして 夫の名前と年齢が書いてある
これは
私たちが結婚する二年前
夫の誕生日だ
表には
何て書いてあるんだろう?
商売繁盛と良縁成就
そして 夫の苗字
この時私は
夫と結婚することなど
夢にも思っていなかったはずだ
これまでには
数百個のダルマを作り
友だちにあげたり
作って欲しいと
頼まれれば作ったり
ほんの数個のダルマを残して
みんなあげてしまっていた
いつもいる部屋の
サイドボードに
まだ残っていた数個のダルマ
そのダルマたちの中に
結婚する前に
夫にプレゼントした
ダルマがあったことなど
私はもう
すっかり忘れてしまっていた
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